スタートアップの1つの時代が終わった。
コンテンツの移り変わりとともに、キュレーションがもてはやされ、多くの若手起業家を救った。
最終的には、DeNAのWELQショックとともに幕を閉じることになった。
自分の周りに直接的に関わっている人が多いわけではないが、その一連の流れやこれからに関して少なからず思うところがある。
ここでは、キュレーション時代として整理しながら書いていきたい。
目次
0.キュレーション以前
どこからがキュレーションというのはなかなか難しい。
CGM型のメディアの時代
メディアの歴史を振り返ると、CGM型のメディアは2000年前後から2ちゃんねる、カカクコムやクックパッドなど様々なものが生まれてきた。
ブログ・WEB2.0の時代
少し遅れてドリコムやLivedoorのブログなどが生まれた。
今までの一方通行型のメディアから双方向にコミュニケーションができるという点で、WEB2.0などと呼ばれた。
誰でも発信できる世代の先駆けだった。
キュレーションの時代
そして、その後にまとめと呼ばれるような情報を集めるキュレーション型のメディアが登場した。
それらが、NAVERまとめだったり、2ちゃんねるの各種まとめサイトだったりする。これがキュレーションの第一世代ではないか。
1.NAVERまとめ(CGM型キュレーション)の時代
概要
第一世代における特徴は、圧倒的なコンテンツ量によってアクセス数を取ることに特化していることだった。
実際、NAVERまとめのアクセス数は媒体資料によると月に26億PV、7,000万UUと圧倒的な数字を誇っている。
ビジネスモデルと戦略
キュレーションメディアの主な収益源は広告である。したがって、このように表すことができる。
収益=アクセス数(コンテンツ数 × コンテンツ当たりアクセス数 ) × アクセスあたりの収益
収益を増やすためには2つの方法がある。
- アクセス数を増やす
- アクセスあたりの収益を増やす
そこで、基本的にはキュレーションは前者を目指す。
そのため、いかにコンテンツを増やすか、いかにコンテンツ当たりのアクセス数を増やすかがポイントとなる。
この2つを増やすために、NAVERまとめではインセンティブを活用した。
自分でブログを書くよりも収益になるという点からライターが集まる。
良い記事を書くとその記事が運営側からピックアップされて収益が増えるので、ライターは良い記事を書こうとする。
この好循環が回っていき、莫大なアクセスを集めることになった。
課題
著作権
コンテンツの大半がオリジナル性の低いものだという課題が常にあった。
- ほとんど引用条件を満たしていない引用
- 明確に他人の画像やコンテンツの盗用
などでかなりグレーゾーンだという認識があった。
Googleの評価
圧倒的なコンテンツ数とアクセス数からサイト全体がSEOで強くなり、引用元サイトよりも上位に表示されてしまう問題も表面化した。
全盛期はどのあらゆるキーワードで、キュレーションメディアが上位に表示された。
WELQ事件以降、著作権に関しては対策を進めるという発表をしている。
2.nanapi(外注型キュレーション)の時代
概要
第一世代がCGMだとすると、第二世代は外注型と言えるかもしれない。
基本的な考え方はここでも変わらない。
いかにしてコンテンツを増やし、アクセスを増やして、結果としての収益を増やすかというものだ。
nanapiもそもそもはCGM型を目指していたようだが、掲示板でのコメントや単純なレビューに比べて記事を書くのが労力がかかる。
自然に任せると質の低いコンテンツばかりになるため、費用を払う外注型のモデルにシフトした。
ビジネスモデルと戦略
NAVERまとめとの違いは、固定された金額であることで、当初は1記事300円ほどであった。
当時はクラウドソーシングが無かったので、自前でクラウドソーシングのサービスを立ち上げて、そこでライターを募った。
基本的には、テーマが設定されており、ライターはそのテーマに沿って書く。
それをnanapi側でチェックして、問題が無ければ費用が支払われるというものだ。
本来的にはアクセス数からすると、問題無く利益が出る構造のはずだが、コンテンツ制作に費用を割き過ぎたせいか、ほとんど赤字だった。
課題
このような構造はこの後に出てくる多くのキュレーションメディアでも変わらない。
クラウドソーシングなどで、単価を抑えつつライターをアサインし、コンテンツを量産する。
結果としては、アクセスの伸びからKDDIに約77億円という評価額で買収されたが、決算で1.2億円の赤字が判明し、注目された。
これ以降、どのメディアもアクセスは集まっても収益が出ないという問題に向き合うことになった。
3.MERY(領域特化キュレーション)の時代
概要
nanapi以降、スマホの普及とともに、領域特化型のキュレーションが様々生まれた。
その中で比較的早かったのが2012年に設立されたMERYだった。
女性に特化し、スマホに向く画像を多用したコンテンツを作成し、引用も用いながらコンテンツを作成した。
女性誌をスマホ化するようなビジネスだった。
この時期に似たようなサイトが多数生まれた。
ビジネスモデル
ビジネスとしては、基本的には全て同じだった。
インターンやクラウドソーシングで1,000円~1,500円程度にコストを抑えながら、一定の画像数やテキスト量を定めて、コンテンツを作成する。
これを1年程度続けると最低でも100万UU程度のアクセスが集まる。
それらをネイティブアドやアフィリエイトなどできるだけ収益が高くなるように換金する。
この段階で、1億円くらいは調達できる。
NAVERまとめやnanapi時代と異なるのは、領域特化の分でどうしてもアクセス数に限界があることだった。
そのため、アクセス当たり収益を上げる工夫がなされるようになった。
また、収益化が難しくとも一定以上のアクセスが集まるとどこかの企業が買収するという一定のパターンが生まれた。
各種あるサイトの中でもMERYは早い段階でネイティブアドによって売上を拡大し、アプリやCMによってブランド化する流れを構築した。
そんな中でのWELQ事件だった。
課題
NAVERまとめ時代と同様の引用問題と画像の著作権問題が解決されなかった。
著作権問題を認識しながら、多くのサイトでは他サイトの画像を表示させたり、自サイトのサーバーにアップロードして使用していた。
一部のサイトではSNSの埋め込み(規約上問題なし)や著作権フリー画像で対応したが、ほとんど徹底されていなかった。
大半のサイトでは、指摘があったときに削除をして対応していた。
テキストに関しても、各サービスで最低限の対策(コピペチェックやライターの審査)を行うにとどまり、指摘のない限りは削除されなかった。
4.WELQ事件
概要
キュレーションメディアのバブルが崩壊したのがWELQ事件だった。
DeNAの運営するWELQというメディアが、SEO上で非常に強くなった結果として注目された。
そして、昨年の11月後半から『死にたい』という検索ワードの上位で広告を訴求したり、医学的なコンテンツに対して、信憑性の低い情報(肩こりは幽霊のせい?)を載せたり、作成過程において著作権侵害や薬機法などを守っていないのではないかという指摘がなされ、大炎上した。
DeNAはそれを受け、12月7日に運営しているすべてのメディアの記事を非公開とした。
詳細に関しては、様々なサイトで解説されているので、そちらを参照していただきたい。
論点
ここまで読まれた方はわかると思うが、実は作成手法においては、過去のメディアと変わりはない。
著作権の問題や記事単価に関しても前々から指摘されていることであって、実は新しい論点ではない。
では、なぜここまで問題になったのだろうか。
個人的な仮説を上げると、
- あまりにもうまくいき過ぎた
- 医療情報というデリケートな情報を扱った
- 一部上場の企業が行った
ではないかと考えている。それぞれ、簡単に補足したい。
1.うまくいき過ぎた
新規事業の大半はうまくいかない。
メディアも同様で90%以上のメディア運営者は月に1万円稼げないと言われており、参入障壁が低い一方で、失敗するものも数多い。
そのような中で、DeNAでは村田マリを筆頭として、サイバーエージェントなど大手IT企業出身者でSEOに強い人材を集めて徹底的にやりきってしまった。
Similarwebによると(信頼性が低いといわれるが、代替サービスも無いので)、最もアクセスを集めた月は7,000万を超えるセッションを達成していた。
全く同じようなことをやろうとしている法人・個人はたくさんあったのだが、ここまでうまくいくことはなかった。
結果としてそこまで注目されることはなかった。
2.デリケートな医療情報を扱った
ここに関しては他の企業との違いが大きいかもしれない。
他のサイトでも健康や美容などの情報に触れるコンテンツがあるメディアは多かったが、医療情報に焦点を当てたようなものはあまり多くなかった。
それは、医療メディアの心理的ハードルが高かったり、クラウドソーシングでは書きにくかったりということからかもしれない。
WELQへの批判として、下手をすれば間違った情報によって命の危険が脅かされるという指摘は多かった。
それまでのこの領域は一般的にコンプレックス商材に代表されるようなマネタイズのしやすいにきびだったり、整形だったり、包茎だったり、アフィリエイターが参入しがちな領域であった。
3.一部上場の企業が行った
これも他の企業との違いは大きかった。
プレーヤーのほとんどはベンチャー企業だった。
上場企業で携わっていた会社もあったが、その後すぐに閉鎖した。
たとえば、Spotlight(サイバーエージェント)やギャザリー(リクルート)など多数のメディアが閉鎖された。
上にも挙げた、LOCARI、MARBLE、RETRIP、Find Travel、kaumo、mamariなどは全て創業数年のベンチャーである。
今までに見てきたようなさまざまな法的リスクがあるこの領域に上場企業が踏み込んだのも間違いだった。
これらの要因から数あるサイトの中でDeNAが集中砲火を浴びることになった。
その後、最終的にはGoogleがウェブサイトの評価方法を改善したと発表し、キュレーション時代は幕を下ろした。
対象とされた、kaumo、MARBLE、RETRIPなどは下手すると最盛期の半分くらいのアクセスになっているのではないか。
5.メディアの今後
この部分が最も書きたかったことなのだが、今回の問題を見ている中で悩ましいと感じる部分が様々あり、それらを少し掘り下げていきたい。
A.目立つと損をすること
これは芸能人の不倫問題から一貫している感じているのだが、目立つと損をするという傾向にある。
ベッキーは不倫問題で炎上するが(全番組やCMを全て降板)、マギーの不倫問題はボヤで済む(出続ける)というような法律によらない部分のいわゆる「私刑」が進んでしまっていることを不安に思う。
今回の件も、WELQが許されるものだとは全く思っていないのだが、なぜか多くの人がWELQの問題だけを取り上げた。
インターネットにおける著作権のあり方やメディア運営における編集のあり方などの建設的な議論はほとんどなかった。
最終的に、Googleがアップデートをしたことは非常に良かったと思う。
ただ、今後は同じことを続ける中小企業や個人の質の低いコンテンツが代わりに表示されるだけではないかという懸念もある。
NAVERまとめのときから思うが、まとめの中には非常に有用なものもあり、切り口として元のサイトでは実現できていないような価値を生み出すものもある。
複製や引用を厳しく規制するよりもYoutubeのように、元ネタをコピーしたものの収益は元ネタの方に行くというような形にする方が良いのではないか。
音楽ならJASRACがあるように、著作権者を保護しつつ、コンテンツを発展させていくような形にできるといいのではないか。
去年、DeNA系の全てのサイトが非公開になった後、それらのサイトに関連するようなキーワードでいくつか検索をしてみた。
その結果は、より小規模な似たようなサイトが上位に表示されたり、何年前のものかわからないような個人のアフィリブログが上位表示をされていて、本当にこれがベストなのかが正直よくわからなくなった。
B.編集とCGMの責任
もう1つ非常に興味のある論点として、編集とCGMというものがある。
紙の本であれば、読者の声であっても、それを選んだのはその媒体の編集者のため、何か問題があれば、媒体の編集者が責任を持つ。
ラジオのリスナーからのメールも同様である。
一方で、オンラインのものは少し勝手が違う。
あくまで場所を貸しているだけというスタンスなので、クレームに対応する形でコンテンツを削除することもあるが、基本的に各個人のコンテンツに責任は持たない。
今回の件もそうだが、引用や著作権侵害、内容の真偽でいうと、WELQ以上にNAVERまとめの方が圧倒的に多いのではないか。
有名人の画像はそのまま使われ、他のサイトの内容そのまま使われ、それによってライターは収益を得ている。まとめの中に信憑性の低いものの数は比べ物にならないほど多いのではないか。
ではなぜ、編集部(体制)があると、厳しく内容が見られ、CGMだと許されるのだろうか。(厳密にはもちろん許されていないのだが)この問題は非常に根深いように思っている。
特に、2ちゃんねるであれば、本当に公園をゾーン分けしているような形で自由に遊んでくださいといっているだけのイメージでまだわからないでもない。
一方で、NAVERまとめの場合は、注目のまとめは運営側で選んだり、ライターにもインセンティブも発生するという点で、極めて通常のウェブメディアに近しいようにも思う。
厳密な受託型ではないだけで、ライターのやっている内容はほとんど変わらない。
正直、ソープと売春くらいの違いにしか思えない。
これであれば、あらゆるメディアはCGMの形式を取る方がリスクが抑えられて安全ではないのかと思ってしまう。
C.収益性
最後に、メディアの収益性に関して。
結局、キュレーションメディアの肝になっているのは、いかに低コストで大きなアクセスを得るのかという考えであった。
それをCGMの形式で行ったり、クラウドソーシングで行ったり、インターンを雇って行ったりと様々なパターンでやっていた。
ネイティブアドのように、単価を上げる努力も行っていたが、MERYやWELQが少し上手くいきかけていたくらいでマネタイズに大成功している例はあまり聞いたことがない。
メディアからのコマースの流れもあったが、「北欧、暮らしの道具店」以外の成功事例を聞くこともほとんどないまま、勝ち筋は見えていないように思う。
現状、利益を得ているところで見ると、FacebookやGoogle、Gunosyなど自社でコンテンツを持たないビジネスの会社がほとんどとなっている。(海外だとBuzzfeedがあったり、国内でもNewspicksが頑張ろうとしているが)
これからのメディアで見ると、アクセスを追うよりも、アクセスはそこそこでもコンバージョンやユーザー単価を上げることで収益を保つようなアフィリエイトメディアへの参入がさらに増えていくのではないだろうか。
アフィリエイトのマーケットは成長しており、小学館が参入したりとなかなか興味深い動きを見せている。
好きなことをひたすら書き続けたので、結論も何もないのだが、1つの時代が終わったことを感じながら追悼の意味も込めての文章でした。